remixというApple Vision Pro専用アプリに関する記事が出ていたので、その内容やアプリについての考察を書いていきます。ファッションデザイン用のアプリという位置づけで開発されていると思います。実際にApple Vision Proを使って少し試すことができました。
remixの開発元はSwatchbook。Swatchbookはファッションデザイナー向けの素材マーケットプレイスプラットフォームです。
海外の記事では、「ファッションデザインを変える」というインパクトのある見出しではじまっています。
海外の記事内容 要約
従来のデザインプロセスでは、
- デザイナーは 2D スケッチを作成
- テクニカル アーティストが詳細なスケッチを作成
- 工場でサンプルを作成
- デザイナーがサンプルを承認
- 必要に応じて修正
remix アプリと Vision Pro を使用した新しいプロセス
- デザイナーはヘッドセットを装着して 3D デザインを作成
- デザインをあらゆる角度から確認
- 素材や色をリアルタイムで変更
- デザインを分解して個々の要素を検査
Vision Pro のメリット
- 手の動きで操作
- 独自の没入型環境の作成
- デザイナーが設計したい環境でデザインを確認
Swatchbookは、Vision Pro と remix アプリを組み合わせることで、デザイナーのワークフローを変えようと試みている、課題はVision Pro は 3,499 ドルと高価、ということ。
個人的に気になるところ
記事に書かれているデザインプロセス
型紙や縫製仕様などが入っておらず服の制作フローとしてはかなり省略されています。生産する工場で型紙その他を全て調達してもらうという生産方法もありますが、それが可能なのは一定以上の規模がある企業に限定されます。
またデザインを作りこむよりも市場に投入するスピードを重視する企業でこの方法が使われることが多く、後述する理由のためこのアプリと相性が良いのか疑問が残ります。
在庫・リードタイム
生地を選んだときの在庫情報やリードタイムなどがリンクされているかどうかも気になります。生地を選んでデザイン決定したあとに使いたい色の在庫が切れてしまっていたり、登録されているモノのリードタイムが長い場合など、商品を売りたい時に間に合わないということが起こります。
色や素材のバリエーションを決めても実際に商品化できなければ、デザイン工程自体が無駄になってしまう可能性があるということです。
試験的に使わせてもらった時は、あくまでツールの見え方などを触っただけなのでこの辺りのフォローをどうされているのかは判明していません。
コスト調整
原材料費に関わるものがデザインと一緒に算出されていくのかどうかも気になる点です。少し触った段階ではこのような機能は無いようでした。
生地の値段が100円/m変わった場合、単純に売値が100円変わるわけではありません。必要なm数はデザインによって変わりますし、原材料費よりも売値の変動幅の方が大きいためです。
好きなパーツを選んでデザインした結果、商品の値段が高くなりすぎて販売できない、という結果になってしまわないように他のツールなどで調整する必要が出てきます。
デザイナーとしての知識は必要
服のドレープなど生地物性は反映されていませんでした。そのため、硬い素材をつかった場合はどう製品形状に影響を与えるのか予想したり、薄い生地と副資材との相性などについての基礎知識が必要になるはずです。
3D画面上では形になっても量産する際に不良品ばかりになってしまっては意味がないからです。
mixというアプリの上位互換?
以前にSwatchbookは、ipad pro用にmixというアプリを出しています。両方つかって比べてみないと正確なことは言えませんが、このアプリをApple Vision Pro用にカスタマイズしたという可能性もありそうです。
機能が似ているのであればApple Vision Proよりも安価なipad proを買って使うという選択肢も出てくるかもしれません。
アパレル3DCADのデータが使われている?
服を分解している状態のデモを見ると、型紙ごとにパーツが分かれているように見えます。アパレル3DCADのデータを使用している可能性が高いのではないかと思います。
remixや、他のアプリの普及により3Dデータの用途が広がれば、アパレル3DCADユーザーの仕事も増えていくかもしれません。
扱えるデータ数
最初から入っていて選択できるデザイン数はあまり多くないようでした。毎月3Dデータが追加されていくとの事ですがその中に使える・使いたいデザインがあるのか分からないという点も気になります。
また、自由に形をモデリングできる機能は見つけられませんでした。仮に自由にモデリングできるようになるとしても、3DCGや服などの構造知識がないとデザインできず、アプリのコンセプトに合っていないように思えます。
外部データを直接読み込めるのか対応しているのかどうかは不明ですが、それらの機能次第で一般的なコンフィグレーターと大差ないものとなってしまうかもしれません。
最後に
実際にApple Vision Proでremixを使い仕事をしてみないと良し悪しは判断できない部分が多いです。デモとして使わせてもらう段階では分からない事の方が多かったです。
課題はありそうですが他のツールをつかって補助する・新しい機能が追加されるなどして使い勝手は向上していくと思いますし、課題がハッキリしているのであれば必ず解決できます。
新しい生産・デザインプロセスによってファッションのデザインする楽しさを多くの人が体験できるとしたら素晴らしいことです。
アパレル3DCADのデータ利用の可能性が広がっていくことで、服の3Dデータ作成という仕事が増えていくのかどうかにも注目したいと思います。