Marvelous Designer講座の作成経緯と内容

CLO 3D

CGWORLDさんでMarvelous Designerの講義を担当させていただくことになりました。

本記事では作成の経緯やどういったことに注力したのか、などについて書いておきます。

有料講座ということもあり「思っていた内容と違った」というミスマッチがないようにしたいということと、制作にいたる過程を残しておくことで次に誰か同じようなことをする時の参考にしてもらえればと考えています。

ミスマッチと書いたものの、少しでも興味がある分野・内容であれば何かの発見や視点の違いなどが見つかる内容になっていると自負しています。後述しますがマーベラスデザイナーの操作のコツやテクニックよりもアバターに着せ付けた服の型紙をどうやって見ていくのか、どう判断するのかという【考え方】の部分に重点を置きました。そのため仮にMarvelous Designerを使う機会があまり無い人にとっても有益だと感じていただけるのではないかと考えています。

作るきっかけ

SNSなどでマニアックな内容を出していた私にお声がけいただきました。他には出ていない尖った内容の講座ができると面白いという風に期待していただいたのかもしれません。

フォトリアルなアバターが増えてきたりUEFN関連の人にMarvelous Designerの使用権を配布するなどした流れで、CGクリエイターの人で服の知識はないけど興味がある、という人は増えてきています。

そういった地盤もありアパレルベースの知識や技術を知りたいCG関連の方の需要がある可能性は高いですし、こういった知識を知ってもらえるとデジタルファッション業界が発展するかもしれないという期待もこめて講座を作ることにしました。

受講者のターゲット

まず、受講者のターゲットを決めていきます。ここが明確でないと講義内容を決められないので重要です。

ターゲットは広くしすぎると内容が薄くなりますし逆に狭くしすぎると受講される人がほどんといないということになりかねません。

結果、Marvelous Designerでの視点操作や服の縫い合わせ・使うショートカットなど、ソフトを使う上で基本操作を習得済みな人をターゲットに決めました。そういう人がステップアップするための内容で考えていくことにしました。

基礎的な操作やUIの説明であれば、公式が出しているものもありますしYouTubeなどでも探せば出てくるためです。CGWORLDさんからは初級の操作説明のようなものはいらないというお話を受けていたという事もあります。
(とはいえ、初学者でつまずきやすい人は独学ではなく誰かに直接教えてもらうことを私はオススメしています。)

どんな人にオススメか

・Marvelous Designerをつかい、アバターポーズに合わせて服を補正することがある

・リアルな服の型紙理論にもとづいた確認・修正方法を知りたい

・服の3Dデータをいつもと違う視点で見てみたい

講義の形式

時間

休憩や質疑応答をふくみ設定時間は180分です。当然、詰め込める内容も時間で変わりますので時間内で綺麗に収まるように構成を考えていくことになります。

休憩などを含むと考えると専門学校などの授業1コマ分くらいの内容で考えておけば良いのかな、というのが最初の印象でした。

リアルタイムか事前録画

講義をリアルタイムで実演するか、事前録画をしておきチャット欄の質疑などを当日対応するという選択肢があります。こちらは事前録画を選択しました。

事前録画であれば内容を何回か修正できるという点や、ソフト操作の読み込み時間をカットしたり早送りするなどして内容を濃くできると考えたからです。受講者の方にとってその方がメリットが大きいと思いました。説明・話しながら操作をするということの難しさを知っているということも理由の1つです。

もちろん、どちらにも良さはあります。リアルタイム実演はライブ感がありチャットなどの質問にも対応しやすいというメリットがあると思います。

内容のリサーチ・選定

ニーズに合ったもの+オリジナリティがあるものが理想だったので、まずはリサーチから始めました。

アパレルCGコミュニティや、CG専門の知人、CGWORLDさんにもご協力いただきアンケートを取りました。
アンケート結果やコメントを参考にして講座のテーマは【既存の服データを修正していく方法】に決めました。

服の型紙作成方法を知りたいという意見も多かったのですが内容から外しました。理由は3つあります。


①180分という時間内では伝えられることは限られてしまい情報として中途半端になるため。
型紙を作成するパタンナーという職業は実務にはいって3年~5年くらいでようやくスタートラインと言われており、とても網羅的に説明するだけの時間が足りません。


② CG関連の方が実務でつかうのであれば既存データをベースに変更・修正するほうが多いため。
ゼロから型紙をつくり何か服を作ることは少ないと考えました。マーケットプレイスなどで服のデータが売られていたり、無料で配布されていることもあります。そういったものを修正・変更していき新しいデザインを作る方が効率なども考えると現実的です。


③ 現実寄りの服なのかアニメやゲームなど非現実的な服どちらを作りたいかによって説明すべき内容が変わるため。
どちらかの内容に寄せてしまうとターゲットがかなり狭くなる内容になってしまうと考えました。

リサーチや決定した内容をもとに、全体の流れと絵コンテ的な企画書を作成しました。
それをCGworldさんご担当の方にチェックしていただき、内容のすり合わせや修正・改善を行いました。

こんな感じのスライドを作って構成を考えました。

画面録画・動画編集

録画

大枠の内容は決まったら、内容の解説をしながら画面録画を進めていきます。以前にCLO3Dを教えるための動画教材をつくった経験があるので録画ソフトOBSの設定やその他の作業などはスムーズにできました。

これから何か動画教材を作る人がいるのであればそれなりに良いマイクを買ったほうがいいです。元の音が悪いとあとから編集でどうにか音質改善をしようと思っても難しいためです。

家にはすでにマイクがあるので問題ありません。マイクが良いからと言って元の声が良くなるわけではないですが。いつかゲーム実況とか出来たらいいかもしれません。

編集

編集はCGWORLDさん側でやってくれるというお話でしたが今回は自分で編集して音の調整のみお願いしました。どの部分は省略しても問題ないのか、あまりにニッチな内容すぎて細かく伝えるのが難しかったためです。

録画データを見返しながら、不要な部分をカットしたり読み込みや処理が長い部分は少し早送りにしておきました。ちょっと分かりにくい・操作手順を省略しすぎた・・などを発見したらメモをとって追加・補足の録画をします。

本講座は後からでも一定期間視聴できるものなので、一緒に作業を進めることを想定したスピードにしていません。繰り返し見ていただくときに動画を止めたりしながら確認してもらえれば、と考えています。ですのでソフトの読み込み時間などは出来るだけ短くして内容を多く・濃くするように意図してつくりました。

そうやって隙間のカットや早送りを繰り返していると想定していた時間よりもかなり短くなってしまいました。
急遽、内容を追加で考え録画・編集・・・を繰り返してようやく講座時間に収まる内容として完成しました。最初に想定していたものよりも2.5倍くらいのボリュームになったと思います。

完成した動画データをCGWORLDさんに共有し、確認と音声の調整をしていただきます。

内容構成と特徴

内容を細かく分けると6部構成になっています。

1.アバターのポーズが服に与える影響について

Marvelous Designerでは服のパーツとアバターは別々に動きます。
講座全体の導入として、それらの関連性を実際に動かしながら説明します。

2.Tシャツを、AポーズからTポーズに変えた時の変化と補正方法

トップス(上半身に着る服)の場合、具体的にどこに影響がでるかということを確認して着目すべきポイントと補正していく手順を実演します。

3.パンツの場合、ポーズを変えたときの変化と補正方法

ボトムス(下半身に着る服)の場合の例として、パンツでの見え方の違いなどを説明します。補正に対する考え方を見ていきます。

4.ワンピースの場合、ポーズが服に与える影響について


ワンピース(上下のパーツがつながっている服)の場合は、どう変わるのかについて説明と補正をします。ここまでの内容の復習も兼ねています。

5.服データを拡大縮小するときのコツ

服データを全体的に拡大・縮小するときのコツについて解説します。操作手順次第では全体に歪んでしまったり、アバターから大きく服がずれてしまい、着せ付け直すのに手間がかかるのでそれを回避しながら調整していきます。

6.生地物性などについて

生地物性がどのように影響するのか例をみたり、慣れるまではどの物性を使うのがオススメかなどを解説します。

全体の特徴

授業などで解説しながらやるとしたら3~4コマ分くらいのボリュームになったのではないかと思います。

操作や手順のテクニックよりも【服の形をみて何を判断しどう考えるのか】という部分に力を入れています。こういった視点や考え方は型紙をつくる技術者でないと分からないことが多いですし、CG業界などアパレルとは異なる業界ではあまり出てこない内容ではないかと思ったためです。

内容が難しくなりすぎないようにアパレル関係以外の人でも分かる内容に落とし込んでいます。服や型紙の予備知識は必要ないので安心してくください。

ネット上にもこういった内容は出ていなかったので(自分調べ)その辺りを楽しんでいただければと思っています。

特典(付属データ)

Marvelous Designer形式(ZPRJ形式)のワンピースデータを配布します。姉妹ソフトのCLO3Dでも使えます。アバターデータを含み配布することはできませんので服のみのデータです。

このデータを使ってワンピースの補正について説明しています。

私が作ったものですので動画の復習用に使っていただいたり、なにか別の服を作るためのベースにするなど自由に使ってただければと思います。

ウエスト部分で切り離せば下側はスカートになるので、変形させて遊んでみるのも良いかもしれません。

逆に上側のみを使って、ジャケットを作る練習もできます。

練習用の簡易的なデータです。そこまで精度が高いものではありませんが商用利用もOKです。
実際の服を作るための型紙には向いていない点はご注意ください。

最後に

作成経緯や内容について書いてみましたが、いかがでしょうか。

ご興味を持っていただけたのであれば、受講をご検討頂ければと思います。