3DCAD・デジタルファッションが日本アパレルに浸透しない理由

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3DCADやデジタルファッションはコロナの時期を起点に注目を集め技術やツールも日をおうごとに発展しています。しかしながら海外に比べると日本国内の浸透具合は遅いと思われます。国外の方がデジタルファッション関連のニュース数が多く投資額の規模も大きいためです。

日本に浸透されるためには複数の壁がありますが、その課題自体が広く認識されていないことも問題かもしれません。そこで今回の記事では直接関係者に聞いた話を含め浸透しない理由を考察していきます。

人材不足

3DCADやデジタルファッション技術の専門知識・スキルを獲得するためには一定期間の学習・訓練が必要です。アパレル本来のスキルを勉強しながら他の技術習得をするには、かなりの時間を使わないとどちらも中途半端になってしまいます。また、アパレル技術職で働いている人に業務時間内で覚えてもらうにも限界があります。

業務外や休日などに学習して高度スキル人材になったとしても仕事が忙しくなるだけで待遇が上がらないということも起こりえます。また関連性の低い技術習得には抵抗を感じる人も多く、それらの事が影響して人材不足につながっています。

使いこなせる人材が少ないことが、浸透する基盤を作り切れていない要因のひとつといえそうです。

デジタルツールの理解度が低い

アパレル業界全体においてデジタル技術への理解度が低く、デジタルツールなどの技術の導入後どう使えばいいのか分からないという事例もあります。他社が成功するのを待ってから導入を検討したい、リスクを取りたくない・とる余裕がないということも浸透を妨げています。

経営層や導入担当者が、現場の問題点や社内リソースを把握できていなかったり、デジタルツールの技術的メリットや利用方法をイメージできないために導入が見送られることもあります。

どの職種・誰が担当するのか

3DCADやデジタルファッション技術を導入・活用する場合、従来の職種とはちがう専門知識やスキルを持つ人材が必要となります。しかし、現状のアパレル企業にはこうした人材を育成・確保するための体制がなかったり誰に担当してもらうのか決められず導入が先延ばしになることがあります。

社内でどの職種・誰が担当するのか、は会社ごとに最適解が異なります。アパレル・デジタルツール双方で広い範囲の知識を持つ人間がワークフローを作るか、全体マネジメントが得意な人間が人材確保も含めて動くかのどちらかが求められます。更に予算を動かせるだけの裁量権がないと苦労して機能する体制を作れても軌道に乗せることができません。

経営層が直接はたらきかけて社内で機能させることができれば話が早いのですが、いずれの場合もマネジメント層への負担が大きいわりに会社の理解を得られにくいことが定着しにくい要因となっていることがあります。

導入・継続コスト

3DCADやデジタルファッションの導入には、ソフトウェアの契約料金に加えPCや周辺機器などが必須となり、対応可能な人材確保も含めるとニシャルコストは高額になります。この時点で導入を断念せざるを得ない場合があります。特に資金の余裕がない企業にとっては大きな負担です。

初期投資だけでなく、ソフトのサブスクリプション費用やメンテナンスなども考えると設備費にそこまでかけられないという判断になる場合もあります。

補助金などを利用してツール導入までは進めたものの、契約更新できずに1年で終わるという事例もあります。
導入・継続両軸でのコストが浸透しづらくさせている一因です。

マネタイズ

3DCADやデジタルファッション技術を活用したデータやサービスをどうやって収益化していくのか、マネタイズモデルが確立されていないという課題も浸透しない理由のひとつです。既存の販売モデル以外でビジネスモデルを構築するか、既存のものに付加価値を与えるのかなど会社方針によりマネタイズ方法は変わっていくので各社での情報共有が難しいこともモデル確立を阻害しています。

デジタルデータは、様々な用途に転用してはじめてコストメリットが分かりやすくなります。サンプルの代用というだけではメリットになるとは言い切れない場面も出てきます。

またデータを販売するなど直接的なマネタイズではなくマーケティング利用や企業イメージ向上など、試算が難しい部分のプラスの影響をどう計測するかが重要です。計測方法次第ではマイナスの試算にしかならないからです。

中長期的な戦略

短期的な目標に追われて結果を求められる場合、社内に定着させる前に導入が打ち切られてしまう場合もあります。

3DCADやデジタルファッション技術は、単なるツール導入ではなく企業全体のデジタル化戦略の一環として検討する必要があります。中長期的なビジョンと目標にもとづき導入の目的を明確にしたうえで推進していくことが重要だと思います。

社内での風通し悪く横断的な改革や協力を得られにくいことが、浸透しにくい原因となることもあります。

さいごに

課題がハッキリしていれば解決方法は必ずあります。今回例に挙げた内容は、これから導入を検討するところがあれば先に問題を想定し、準備をしておくための参考にしていただければと思って書きました。

すでに壁にぶつかっているのであれば、社内リソースで出来そうなところから手を付けてみて欲しいと思います。

必ずしも3Dやデジタルに注力しなければならない訳ではないと思いますが、今までのやり方でずっと同じことを続けていくのは難しくなると予想されます。

3DCADやデジタルファッション技術は何かしらの変革をもたらす可能性を秘めています。とはいえ国内よりも海外の方が挑戦的なことが行われていることは確かです。国内でも挑戦的な取り組みが行われるための参考になれば幸いです。