アパレル3DCADが実際にどういった場面で使われることがあるのか参考になりそうな例を挙げてみます。データを活用するイメージしていただくための記事です。
すべての事例を書いているわけではありませんので書いている内容を組み合わせたり応用して使ってみてください。
できるだけ専門的な内容や単語を入れないようにして軽く読み流してもらえるようにしています。
企画での使用例
プリント確認
プリントや刺繍のサイズや配置は3D上で見た方が分かりやすいと感じる人が多いと思います。これは、平面で確認するのと実際に着たとき・立体形状では印象が違うためです。経験や知識などで補うことも可能ですが、3Dデータであれば経験に左右されることなく、だれでも同じように製品の出来上がりを確認・検討できます。
下図、左は平絵と呼ばれるもので、右はCLOで作ったデータです。右の方が製品のプリントデータの大きさや位置をイメージしやすいと思います。ちなみにプリントデータはCLOのAIジェネレート機能で作成した図案です。
プリント配置位置や大きさが変わるとデザインの印象は変わるので、それらの検証に3Dデータは有効です。
3Dデータであれば画面上で並べて確認できますし、実際の製品にプリントするよりも3Dの方が速く確認できます。
3Dデータで確認することで、プリントテストする回数を最小限にできます。
紙に図案を印刷してTシャツに当てて確認する必要がないため、環境にやさしいという事もできます。
デザインの擦り合わせ
精度の高い3Dデータをもっていれば担当者間の認識を合わせることが可能です。つまりどのような形の服をつくるべきか検討を素早く行うことができます。デザインのバリエーションを作成し比較検討することもできます。
デザイナーと発注・予算決定は異なる人が担当していることが多いため、デザインに対して認識のズレが出てくることもあります。デザイナーが書いた絵をみて企画会議をして進めようとなった場合でも、サンプルが上がってきたときに予算決定者のイメージと合わずにデザインを変更したり練り直すということは起こりえます。
3Dデータで様々な角度から立体的に確認することでイメージのズレを少なくできます。
MDマップへの利用
アパレルでいうMDマップとは商品構成を視覚的に表したものです。具体的にはブランドごとに様々な要素を軸にアイテムを分類し季節ごとの商品予定を立てたり売上目標や利益率などを設定します。
3Dのデータをもとに平面の絵を作ったり店頭にどの色を出して構成するのか、などを検討できます。
商品写真を印刷してボードに貼るということをしなくても、データであれば並び替えも簡単です。アバターを入れて人間に着させているように表示させたり服だけのデータに変更することも容易です。
担当者同士がリモート環境で作業を進めたり共有可能だということも、便利なところだといえます。
生地提案・確認
柄の大きさや色確認
生地提案時に柄の大きさや色を入れる順番など、先にデータで確認するためにも使われています。生地を実際に作ってから補正していくよりもスピード感を出せます。作ろうとしている柄は、提案したい服のデザインに合っているかどうか、という意見合わせも行いやすくなります。
柄の色が変われば印象も異なる、ということはイメージしやすいと思いますが、柄の大きさが変わっても印象は変わります。下図は、中央を100%にして、左を70%に縮小、右は130%に拡大しています。ここでは分かりやすいように大きくバランスを変えていますが、数%の違いでも与える印象は変わります。
立体的な形状に柄を乗せた方が、布や図案単体で見るよりも商品のイメージを連想できるのではないでしょうか。
柄合わせ確認
製品のどこで柄を合わせるのか、それともコストの関係で合わせないのか、などを検討する際にも3Dデータは使われることがあります。
下図は見頃の柄位置を変えています。裾をみると色の違いが分かりやすいと思います。特にパーツの端にでてくる柄は目立ちやすいので異なる印象を与えます。
ボタンなどの付属を使っている場合、生地の柄色と付属位置を合わせるために柄位置を調整したり、逆に付属のバランスを調整することもあります。
柄の位置を変えると見え方だけではなく、要尺(服を作るために必要な生地の長さ)も大幅に変わることがあります。要尺が変わるということは販売価格が変わるということです。
下図、左は袖を左右で合わせています。右は袖柄も胸ポケット柄の高さも合わせていません。仮に左の売値が11,000円で右は9,800円で作成できるとしたらどちらが良いだろうかという検証を視覚的な判断を元にできます。(コストの差は柄の大きさや生地の値段など幾つかの要因で変動します)
柄の向きを変えて比較しやすいという点も3Dならではといえます。下図では、ヨーク(肩についているパーツ)の角度を変えています。柄の角度も、見た目や要尺に影響を与えます。
これらのことはどちらが良い・正解ということではありません。
何を優先させるべきかという戦略を3Dデータであれば、あらかじめ誰でもイメージしやすい・決定しやすいという点が有用だといえます。
裁断位置の目安
柄位置の指示書をつくる場合にも3Dであれば視認性が高いということで使われることがあります。「○○の位置を、柄の中心に合わせて・・・」と文章で指示されるよりも、立体的な図があったほうが間違いは少なくなります。
また生地のどこに裁断パーツを配置するのかという目安を示すこともできます(下図のパーツ配置は適当です)
別紙などで柄指示をしたほうが分かりやすいという場合もありますし、組み合わせて説明を作っても良いと思います。
パタンナーの使用例
トワルチェック
トワルチェックとは服のデザインと型紙のすりあわせのために、シーチングや実際の服で使われる生地をつかい立体を組みあげてチェックします。デザイナーのイメージ通りなのか確認したり、型紙の問題を修正するために行われることが一般的です。実際の資材をつかい縫製してサンプルを作る前の確認工程と言い換えることもできます。
アパレル3DCADであればお互いに離れた環境であっても確認可能なため、リモートでの作業が浸透している会社や家庭の事情などで自宅作業する必要がある場合にも有効なツールだといえます。
トワルチェックは半身でピン打ちという会社が多く、レディースであれば右半身、メンズは左半身のみ作ります。ピン打ちではなく実際にミシンで縫って確認する会社もあります。縫って確認する場合、中綿入りのものや加工があるものは、工数が多くかかります。
3DCADであれば両身での着装が基本ですので全体感を確認しやすく、簡易的な3D組み上げであればトワルを両見頃縫うよりも早く終わります。また中綿やダウンなどの表現も膨らませる機能などをつかうことで縫うよりも早く対応できます。
プリーツの「型」を新しく作るには費用も時間もかかりますが、新しいプリーツの型を作って試してみたいという場合でも、3Dで検証すればコストを抑えることが可能です。
トワルチェック全てを置き換えるのではなく、トワルを組む前段階で着丈や切り替えのバランスだけ3Dで確認したりトワルの後に気になった部分のみ、3Dを使い家で作業するというハイブリッドな使い方をすることもあります。
サンプル作成するよりも早い段階でさまざまな問題を特定することにより、時間とコストの削減に役立ちます。3Dデータだからこそ効率が良い部分もあります。
マーケティング
3Dデータを活用してECの商品ページやカタログを作成している事例もあります。3Dならではの表現方法を駆使し、海外では顧客満足度の増加や、集客率の変化に良い影響を与えているといった数字を出しているところもあります。
3Dデータをアニメーションさせたり、VR/ARなどの技術と組み合わせることで付加価値の高いプレゼンテーションのために利用されることもあります。静止画よりも動画のほうがサイトの滞在率は上がりやすいためです。
またremixというapple vision pro用のアプリなどでも3Dデータが活用されています。
展示会で3Dデータが使われることもあります。通常は各色製品をつくったうえで展示会で受注したり量産品を作成します。3Dデータに色や柄の一部を代用させることでコストを削減したり、展示会場の空間を余らせることで他のアイテムや什器などを置きブランドの見せ方を強化するということも可能です。
教育・研修
3Dモデルを活用してアパレル製品の構造やデザインを視覚的にわかりやすい資料を構成できます。新人への教育や、研修に3Dモデルを活用することができるということです。
手書きの資料や図解を保管しているという会社もあると思います。手書きの温かみは良いものですが、情報を更新するときにはデジタルデータの方が利便性は上です。
アパレル3DCADで作ったデータを学習用にも転用できるという点は、デジタルデータの強みだといえます。
アーカイブ
服の3Dデータをアーカイブにしようという動きもあります。
服の写真では細部が分からないこともありますし、写真の服をことなる体形の人に着せ付け直すことは出来ません。アパレル3DCADデータで保管されていればアバターの入れ替えや生地の物性を変更してみせる、なども可能です。
また、実際の服を大量に保管するには広い場所が必要ですし、維持費用などコストの問題もあります。デジタルデータであれば、どれだけの量があっても空間的に圧迫されることはありません。
最後に
社内のリソースや文化・風土、仕事の進め方によってアパレル3DCADの有効な使い方は変わります。今回、例にあげたものの中で何かヒントになるようなことや、興味がでるものがあれば実際に試してみてください。
それぞれの使用方法に課題はあります。もし、試してみたいことに取り掛かれないときは外注したり、アドバイザーやコンサルに依頼するというのも手です。外注すると費用はかかりますが、内部で検証する人員のコストと比較したときに時間的にも金額的にも安く収まる可能性は高いでしょう。
またアパレル3DCADは1つのことだけではなく複数の取り組みに活かした方が費用対効果を高くなります。はじめは1つのことに注力したほうが良いですが、段階的にデータの幅広い使い方を考えてみてください。