リアルな服表現をアパレル関係者以外に広めていくための記事です。
服の絵を書いたり服CGのデータを作るひと向けに、ややマニアックな知識をできるだけ簡単な内容にして提供していきます。この記事では、ステッチやパッカリングについて説明していきたいと思います。
基本的な内容だけ書いていますが、全く知識がない状態からでは気が付けないこともあるのではないかと思います。
構造や基本的なことを知っていれば実際の服画像を用意しなくてもリアルな表現ができます。逆になんとなくステッチやパッカリングを入れてしまうと違和感ある見た目になってしまいます。
ステッチとは
すごくザックリというと「表に見えている縫い目」のことです。
今回は一般的なミシンで説明します。特殊ミシンによる変わった縫い目もありますが、基本的な考え方は同じです。
通常ミシン布と布を縫い合わせる時、2本の糸(上糸と下糸)を絡ませて繋いでいます。イメージとしては下図のような感じです。
ステッチを入れる理由は、補強・デザインポイント・パーツを抑えるため、などです。
むやみにステッチを入れてしまうとリアルな服に見えなくなってしまう点に注意が必要です。
糸の色
一般的な服だと糸色は布に合わせます。白いシャツなら白い糸を使う、といった風にです。
デザインとして配色(布とは別の色)のステッチを使うこともあります。
デニムパンツでは青い生地に黄色のステッチ糸を使っているのを見たことがあるかと思います。
構造上通常ミシンの場合、上側(表側)の下側(裏側)の糸を別の色にすることも可能です。表と裏で生地の色が違う場合などは、それぞれの色に合わせて糸色を選定できます。
チェックやストライプなど柄生地の場合、薄い色に合わせるのか濃い色に合わせるのかで印象は変わります。
下図、左はストライプの濃い方、右は薄い方にステッチ色を合わせています。
どちらが正しいということはないので、デザイン次第で色を決めて大丈夫です。
まとめ
・ステッチ糸色はデザインで自由に決められる。ただし印象は変わる。
・ステッチ糸色は、表と裏で別々にできる。
・繋がっている1本のステッチは途中で色が変わることはない。
(柄に合わせて途中で色糸を変更することは可能だが、様々な理由で選択されることは少ない)
糸の太さ
糸は太さに違いがあり、いくつか種類があります。
番手(ばんて)と言われていて、数字が小さくなるほど太い糸になっていきます。
スパン糸やフィラメント糸など、糸の種類によっても見た目は変わるのですが、CGや絵で糸種類の違いを表現することは現実的では無いので説明は省きます。
糸が太くなるほど針も太いものを使います。生地組織との相性や強度の問題など細かいことはたくさんありますが、薄い生地には細い糸を使い、厚い生地には太い糸が使われる傾向にあると思っておいてOKです。
薄い生地に太い糸を使うと縫製の調整がむずかしくなり、パッカリングの原因になることがあります。逆にそれを利用して縫い目のツレを発生させデザイン表現にする場合もあります。
まとめ
・糸の太さは、何種類かある。
・糸の太さは、生地の厚みなどで使い分ける。
・糸は、細いと繊細な印象をあたえ、太いと力強い印象をあたえる。
運針・縫い目
ミシンの運針(うんしん)とは、縫い目数のことです。
一般的に3㎝のあいだに何回針が落とされているか(何本の縫い目が見えるか)を数字で表します。
たとえば、12針/3㎝という運針指示は下図の通りです。
運針数が多いほど、縫い目は密になり繊細なイメージになり
逆に少なくなると、縫い目が長くなりカジュアルなイメージになります。
一般的に、細い糸を使うとき運針数は多くなり、太い糸を使うとき運針数は少なく設定します。
例えば、50番糸をつかうばあいは13針/3㎝、30番糸をつかうときは9針/3㎝、にするというイメージです。
細いステッチ糸で絵などを表現しているのに、運針数が少ないと不自然に見えるということです。
通常のミシンステッチは縫い糸のスキマは大きく開きません。実際の服を見てみると、ステッチの糸と糸の間が開いていないことが分かると思います。
下図の様にスキマがあいているものはハンドステッチなどの特殊ミシンを使っているか、手縫いしているかどちらかです。
ただし、ステッチを細かい線で書いていたり繋げていると視認性は悪いため、バランスや表現方法に合わせてリアルではない描き方をするか検討してください。
まとめ
・縫い目のこまかさは糸の細さと連動する。
・運針数を変えると印象も変わる。
ステッチの場所・端処理
ステッチが縫い目に入る場合、基本的に縫い代が重なっているほうにステッチが入ります。縫い代が浮いてこないようにおさえるためです。見返しという裏面のパーツを固定するためにステッチをいれることもあります。
縫い目の布が1枚だけの部分にステッチを入れることは余りありません。厚みがある生地やしっかりした革製品などには入れることもあります。
ステッチが終わる位置ではステッチがほつれてこないように処理が必要です。返し縫い(折り返して縫う)をしたりカンヌキと呼ばれるミシンで止めたりします。
カンヌキはチカラが掛かる部分に補強として使われます。こういった細かい点があるかどうかでリアリティに違いが出てくることもあります。
まとめ
・ステッチを入れる場所は、必ず理由がある。
・ステッチを入れることで裏側のパーツがどうなっているか表現することもできる。
・カンヌキなど特殊ミシンを入れていくとよりリアルになる。
パッカリングとは
縫い目やステッチ部分などにでる細かいシワのことです。アパレルではピリ付きと呼んでいたりします。
断面図にすると、凹凸ができている(波打っている)状態です。
重なっている布のうち片方だけ波打っている場合もあれば、2枚以上の布がまとめて波打っている場合もあります。
起こる原因
縫製している糸の引っ張るチカラ(ミシン設定で変更できます)が強すぎたりバランスが悪い。使っている糸と布の相性が悪い。片方の布を伸ばしたり縮めてしまいながら縫っている。縫い糸が縮んでいる。熱や湿度…など様々な原因で発生します。
詳しい発生原因や、改善方法はCGや絵をつくるときには必要ないと思いますので省略します。
簡単にいうと、2つ以上のモノ(縫い糸や布同士など)で長さや高さなどの差分があるとパッカリングが起こり、余っている方が波打ちます。下図は縫い目が縮んでパッカリングが発生するイメージです。
まとめ
・パッカリングはデザイン表現のひとつだが、どちらかというとカジュアルな印象を与える。
・フォーマルな服装など、綺麗に整えて作るときパッカリングは縫製不良という扱い。
服種類を問わずパッカリング表現を入れてしまうと違和感が出てしまうので使い分けに注意。
パッカリングの見え方
パッカリングの見え方は、様々な要因に影響されて変化します。
- 生地の厚さ・硬さ
- 生地や糸の追従性
- 縫う糸の太さ
生地の厚さ・硬さ
生地が厚く・硬いものにはあまり入りません。逆に生地が薄く折れ曲がりやすいものには細かく出ます。
生地のシワと同じように考えればOKです。シワについて書いた別の記事も参考にしてみてください。
使う生地の厚みなどに合わせて、パッカリング入れるようにしてみるとリアリティが増します。
生地や糸の追従性
生地や縫いっている糸が伸びたり、熱や蒸気などで馴染む場合パッカリングは発生しづらくなります。追従すると差分がなくなるためです。
Tシャツやニットなどは基本的にパッカリングがほぼでません。これは縫っている糸や、生地自体がうごいて凹凸が生まれないためです。
伸び縮みして動く生地を使っている場合、パッカリング表現するとリアルに見えないので注意しましょう。
(縫製不良の服として表現したいのであればOKです)
縫う糸の太さ
縫う糸が太いほうがパッカリングは発生しやすく、凹凸も大きくなります。
細い糸よりも太い糸のほうが、布を押しこむ面積が大きくなりますし糸自体の引っ張るチカラも強いことが多いためです。
繊細な布には細い糸を使うことが多いため、薄いシャツのステッチ付近に凹凸が大きいパッカリングがあると不自然です。
まとめ
・パッカリングの見え方は、生地の特性によって表現をかえると良い。
・生地だけではなく縫っている糸にも注目して変える。
最後に
この記事ではステッチやパッカリングの捉え方・考え方の導入として、基礎だけ大まかに書きました。
実際の服を観察する時、この記事で書いている内容を思い出しながら縫い目の見え方や凹凸具合に注目してみると気が付くことが増えるかもしれません。
もっと細かい内容まで突き詰めてみたくなったら色々な服をみて研究してみたり、詳しい人にサポートに付いてもらうとよりリアルな服表現ができるようになると思います。